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【中野翠CINEMAコラム】「あたりまえの日常」が失われた女の心の彷徨をジックリ描く『千夜、一夜』

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中野翠

ユニークな視点と粋な文章でまとめる名コラムニスト、中野翠さんが、おすすめする映画について語ります。今回は、田中裕子さん主演、2人の「待つ女」を描いた『千夜、一夜』。そして洋画はフランス映画『秘密の森の、その向こう』を紹介します。

毎回毎回、洋画ばかりというのも気がとがめて、今回は邦画で。

舞台は日本海の離島の港町。漁師をしていた夫は、ある日、突然、姿を消した。

船で遭難したのか、家を捨てたのか、それとも何者かによって拉致されたのか? 妻の登美子(田中裕子)は、30年経っても、一人、思い出にすがって夫の帰りを待っている。

そんな中、2年前に夫が失踪したという奈美(尾野真千子)と知り合う。彼女は登美子よりだいぶ若い。30年間も苦しみに耐えて来た登美子とは、気持ちの持ちようが微妙に違う。そんな「温度差」を感じながらも、奈美に同情していたのだが……ある日、登美子は街中で、失踪した奈美の夫を見かけてしまう……。

日本海の離島というだけで、私なぞは、つい、北朝鮮による拉致事件かと思ってしまうのだけれど、この映画では、そのあたりは明確にしていない。それよりも、ある日、突然、「あたりまえの日常」が失われた女の心の彷徨に焦点を合わせて、ジックリと描き出している。

無表情のようでいて、心のうちが微妙に伝わって来る田中裕子の演技。さすが。

尾野真千子、白石加代子(!)、ダンカン、田中要次、平泉成など、傍を固める演者たちも、それぞれ、いい味を添えていて、安心して見られた。

さて、洋画ではフランス映画『秘密の森の、その向こう』を断然、オススメ。

8歳の少女ネリーは、ある日、森の中にポツンと佇む祖母の家を訪ねる。子どもだった頃の母が遊んだという森を、一人、探索していると、自分と同じ年頃の少女と出会う。その子の名前は母と同じ「マリオン」だった……。

子どもらしく、現実と空想が入り混じった話なのだけれど、違和感や甘ったるさがなく、胸にしみて来る。少女二人の(ちょっとクールな)愛らしさ。
東京では9月23日公開だけれど、全国順次ロードショーになるという。ぜひ、観てほしい。

『千夜、一夜』
監督/久保田 直 出演/田中裕子、尾野真千子、安藤政信、白石加代子、 平泉 成、小倉久寛/ダンカン 他 10月7日よりテアトル新宿、シネスイッチ銀座 他 全国公開(日本配給/ビターズ・エンド)©2022映画『千夜、一夜』製作委員会

※この記事は「ゆうゆう」2022年11月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

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