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幸せ研究の第一人者として知られる前野マドカさん。「いつもと少し意識を変えるだけ。 幸せを感じることは意外と簡単です」

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ゆうゆう編集部

幸せとは、誰かが運んでくれるものではなく、「自分で育むものであり、毎日の小さな積み重ねが大切」。そう語る前野マドカさんは、幸せ研究のエキスパート。私たちが幸せを感じながら日々を過ごすためにすぐにできることを教えていただきました。

研究によって導き出された、幸福度を上げるヒントとは

科学的に検証された 幸せのメカニズム

幸せを感じにくい時代になったといわれている今日このごろ。大きな不幸を背負っているわけではないけれど、毎日もやもやする、満たされていないと感じてしまう……そう悩む人も少なくないようだ。

「そんなネガティブな気持ちから、一刻も早く抜け出しましょう。日々の生活の中で幸せを実感する、つまり幸福感を高めることは誰にでもできます。考え方や意識を少し変えるだけ。知ってしまえば、意外と簡単だと感じるのではないでしょうか。無意識のうちに、もうすでに実践しているものもあるかもしれません」

と前野マドカさん。前野さんは、夫である前野隆司さん(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)とともに、幸せ研究の第一人者として知られている。
「これまでの研究で、幸せを感じるためには『4つの因子』を意識して高めればよいことがわかっています」

前野さんの研究テーマとなっているのは「幸福学」。心理学と統計学をベースに、人が幸せになるためのメカニズムを検証する学問だ。幸せを感じるための「4つの因子」も、この幸福学によって、科学的に導き出されたものだという。

幸福感を高めるために 必要不可欠なものとは

4つの因子は、上の図に挙げたとおり。
「これは幸せ体質になるためのヒントだと思ってください。それぞれの因子は、バラバラなように見えて実は連動していることも忘れずに。ひとつが満たされれば、他のものも影響されて、好循環が生まれます」

ひとつずつ見ていこう。まずは「や ってみよう!」因子から。
「これは自己実現と成長の因子です。わくわくすること、得意なことを見つけてそれに向かっていくとき、人は幸せを感じます」

「ありがとう!」因子は、文字どおり、感謝と思いやりの因子。
「誰にでも感謝の念をもって優しく接していると、『幸せなつながり』が構築されます。人への思いやりは、自分のためでもあるのです」

「なんとかなる!」因子は、楽観性の因子。
「これはとても重要な因子。楽観性はいい意味でトランプのジョーカーのようなもの。他の因子が高められなくても、幸せサイドにひっくり返せるような勢いがあります」

最後は「ありのままに!」因子。
「主体性や個性を大切にすることが、幸せを引き寄せます。人からどう思われているか気にしないこと、また誰かと自分を比べないこと。まず、マイペースを心がけることから始めましょう」

幸せを感じるために、自分に足りないのはどの因子なのか、わかったところで次のステップへ。それぞれの因子を高めるために、楽しんでできる実践法を教えていただいた。 「幸せを感じることにフォーカスして、少しだけ考え方や行動を変えてみましょう。無理なく取り入れられるものばかりです。繰り返し行うことで習慣となり、いつのまにか幸せ体質になっています」

さっそくレッス ン・スタート!

1 「やってみよう!」因子
自己実現したいことがあること、成長意欲があること、やりがいや生きがいを見つけていること、強みがあることなどに関連する因子。

2 「ありがとう!」因 子
物事に感謝していること、利他的で思いやりがあること、多様なつながりがあることなど、良好な人間関係に関連する因子。

3 「なんとかなる!」因子
前向きで楽観的であることや、自己受容できていること(自分のいいところも悪いところも好きであること)などに関連する因子。

4 「ありのままに!」因子
人の目を気にしすぎず、人と自分を比べずに、自分らしく、ありのままに生きていることと関連する因子。

今日からさっそく始めたい 幸せを育むためのトレーニング

「わくわく」や「ときめき」を意識するのがコツ

やってみよう!といっても、「大きなことに挑戦する必要はありません」と、前野さんは強調する。

「わくわくしたり、ときめいたり、あるいはリラックスしたり。日常で感じている『小さな幸せ』は、自分が何をしているときに感じるのかを再確認してみてください。好きな音楽を聴いているとき、ハーブティー を飲んでいるとき、かわいい動物の動画を見ているとき……普段、意識せずに何となくやっていることも多いのではないでしょうか」

身近すぎて、それが幸せをもたらす行為と気づかずに、見過ごしていることもありそうだが― 。

「今度からは、それを意識的にやってみましょう。悲しいときや落ち込んだとき、『これをやれば前向きになれる』というものをもつことは、幸福度を上げるためには大切です」

幸せとは、このような小さなことの積み重ねだという。
「健康な人の多くは、食事に気をつけたり適度な運動をしたりと、健康に気をつけて生活していますよね。 幸せも同じ。『幸せに気をつけて』生活してみてください」

「やってみよう!」因子を意識  小さな楽しみを見つける

何かひとつ、「ていねいに」やってみる

特別なことでなくてかまいません。いつも当たり前にしていることや、ルーティンになっていることを、意識的にゆっくり、とことんていねいにやってみましょう。たとえば、朝の歯磨きでもいいし、夕食の「最初の一口だけ」を時間をかけてじっくりと味わうといったことでも。他のことは考えず、静かに集中するのがポイントです。これを毎日繰り返すことで、不思議と心が落ち着き、全身がすっきり整ってくるはず。マインドフルネスのような効果を期待できます。

お気に入りの音楽を聴く

ポジティブな音楽を聴きながら、幸せを感じることに集中すると、幸福感を得やすいという研究結果があります。これは音楽による相乗効果。音楽は、今ある幸せや過去の幸せを、より鮮明にしてくれるようです。また、自分のテーマソングを決めるのも効果的。元気になれる、自分らしくいられるテーマソングを決めて、気分が落ち込んだときに聴くと、それだけで幸せを感じることができます。

あえて「いつもと違うこと」をしてみる

「やってみよう!」因子は成長の因子。成長には変化が必要です。私たちはつい、今までに経験したことのほうが安心でラクだからという理由で、「これまでどおり」を選んでしまいがち。確かに変化は怖いことですが、何かに挑戦してそれがうまくいくと、幸福度はぐっと上がります。挑戦は、大きなことでなくてOK。よく行くカフェで、いつもなら絶対オーダーしないような飲み物をチョイスするなど。意外なお気に入りに出合えて、気分が上がるかもしれません。

自分次第で、どんな人ともつながることができる

自分の言動で誰かが喜んでくれたら幸せ。つまり、多くのつながりをもつことで、幸福感を得るチャンスも増える。

「『グループ活動』に関連してひと言つけ加えると、複数のコミュニティに参加している人は長寿であるという研究結果があります」

嫌いな人ともつながるべき?
「嫌いだからと負の感情で接していると、心が疲弊して、幸福度が低下します。でも相手は変えられない。だから自分が変わるしかありません、自分自身のために」

まずは1週間、「この人にもきっといいところがある」と自分に言い聞かせて、嫌いな相手をチェック。

「ある人は、椅子から落ちた自分のカーディガンを、嫌いな上司が拾って背もたれにかけ直してくれたのを偶然見かけて、その上司の印象がちょっと変わったそう。『いいトコあるな』って」

ほんの少し見え方が変われば、そこが出発点になる。
「こちらが好意をもって接すれば、相手も悪い気はしません。そこから新たなつながりが始まります」

「ありがとう!」因子を意識  人とのつながりを大切にする

どんなことでもOK! グループ活動に参加する

グループ活動は、何らかの目的があって行うものですが、実はその目的を達成できるだけではなく、幸福感を高めるうえでも有効です。事実、「グループ活動は幸せにつながり、抑うつや不安を軽減する」という研究結果も。ときに人間関係がストレスになることもありますが、結局のところ、人は誰かといるほうが幸せです。リアルに集うものではなく、SNSやオンラインなどでもOK。ピンときた活動に、参加してみましょう。

人のいいところをうわさする

「人のうわさをするときは、長所や成功に注目するほうが幸せ」という研究結果があります。誰かの「いいうわさ」をみんなに伝え、繰り返していると、不思議とだんだん自分も気分がよくなるもの。もし、誰かの悪口で盛り上がっている場に居合わせたら、「でも、あの人にもいいところがあるよ」と発言しましょう。勇気を要することですが、それはとても前向きな転換になります。

会いたい人に 連絡してみる

会って話したいと思っても、連絡するのが恥ずかしたり、返事がこないことが心配だったりで、ためらうこともあるでしょう。でも、「人とのつながりがあるほうが幸せ」という研究結果を思い出して。特に孤独を感じてネガティブな気分になったときは、それを断ち切るためにも思い切って連絡を。「最近どうしているかと思って」と言われて、イヤな気持ちになる人はいません。

コンビニの店員さんに声をかけてみる

朝に立ち寄ったコンビニで、店員さんに、自分から「おはようございます!」と明るく声をかけてみましょう。店員さんもきっと、笑顔でこたえてくれるはず。そんなちょっとした交流に心が弾んで、その日一日を楽しい気分で過ごせます。会社の警備員さんなどに「お疲れさまです」と言ってみるのもいいでしょう。「オープンに人と触れ合うことができる人は、幸福度が高い」という研究結果もあります。

ハードルを取っ払って 自分を甘やかしてみては

楽観性に関わる「なんとかなる!」因子。これを高めるのは、几帳面な気質の私たち日本人には、少し難しそうだ。

「ちゃんとしなくては、ちゃんとした人に見られなくては……生真面目なせいなのか、そう思い込んでいる人が多いように思います。物事に対して、とても高いハードルを自分に課しているのでしょう」

思いどおりにいかない。すると「私はこんなはずじゃないのに」と、自分が許せなくなる。
「結果、人も許せなくなります。こうなるともう、負のスパイラル。家族を含め、まわりにいる人まで巻き込まれて、不幸になってしまいます」

打開するために、上で紹介した方法にぜひトライを。肩の力を抜いて、考え方を少し変えてみよう。

「知り合いから聞いた話ですが、アメリカでは、子どもが野球の試合で空振り三振だったとき、よく『ナイストライ!』と声をかけるそうです。バットを振ったことがえらい、振らなければ当たるチャンスもないんだから、と。この考え方、お手本にしたいですよね」

「なんとかなる!」因子を意識 合格点を下げてラクに

迷った時は「これでいっか」と妥協する

「選択肢が多い人は不幸である」という研究結果があります。何かモノを選ぶときはもちろんのこと、昔と違って現代は職業も結婚も人生も、選択肢が多様化しています。何が最良の選択かを考えすぎて、結果、訳がわからなくなってしまうことも多いのではないでしょうか。こんな時代だからこそ、「最良」にこだわりすぎると疲れてしまいます。「だいたいこれでいいや」という、いい意味での妥協が、幸せへと導いてくれるはず。

「やらねばならない」ことをやめてみる

アップルの創業者、スティーブ・ジョブズは、いつも黒か紺のタートルネックを着用。自分が心地よければ、同じスタイルでいいというのが彼の持論です。毎朝の服選びをやめることで、幸せを手に入れていたのかもしれま せん。一度「やらねばならないリスト」を作り、眺めてみては。きっと「しなくてもいいこと」があるはず。やらねば ならないことを減らして、シンプルに生きる人は幸せです。

小さくて、できそうな目標を立てる

たとえばダイエットをするとき、「1カ月で5キロやせる」と、大きな目標を定めることはありませんか? 目標は大きいほうがやる気が湧く 、短期間で一気に達成したいその気持ち、よくわかります。ですが、より幸せなのは「小さなゴールに的を絞って、少しずつ 達成範囲を広げていく人」です。目標が大きすぎると、どう進むべきかわからず迷ったり、挫折したりするリスクも。まずは目指すことのできる、小さな目標を。

ネガティブなことをポジティブに変換する

ネガティブな気持ちや言葉に慣れて、それがクセになっていませんか? たとえば「ありがとう」と言えばいいところを「すみません」と言ってしまう。また、ほめられたときに「おだてても何も出ませんよ」と言ってしまうなど。謙遜や遠慮、謙虚な心は美しいものですが、一方で自己肯定感を下げ、幸せから遠ざかってしまうことにも。想像力を働かせてポジティブに変換する練習を。

これから目指すべきなのは 持続可能な幸せ

「ありのままに!」因子は個性と主体性の因子。
「人との関わりの中で、自分らしさを封印していませんか。言いたいことも言わずに我慢してばかりでは、幸せは遠ざかってしまいます。協調するけれど自己主張もする、『和して同ぜず』の精神でいきましょう」

また、他人と自分を比べないことも大切だ。
「『やってみよう!』因子や、『ありがとう!』因子が満たされてくると、心にゆとりが生まれ、他人のことが気にならなくなります。そうなると逆に、マウントを取ってくる人を『残念な人』と思えるようにも」

もうひとつ、幸せを叶えるために忘れてはいけないことがある。
「お金やモノ、地位。これらを誰かと比べて、自分のほうが上だとしても、幸せにはなれません」

いわゆる「地位財」は、手に入れても、ひとときの満足を得られるだけで長続きしない。研究でもそういう結果が出ているそうだ。
「4つの因子を高めることで得られる心の幸福感、『長続きする幸せ』を目指しましょう」

「ありのままに!」因子を意識 自分らしさを受け入れる

イライラ・もやもやしている自分を受け入れる

嫉妬や怒りなどの感情が浮かんできたら、「 それは当たり前」と受け入れてください。反省はせず「私は今怒っている」と自覚すればいいだけです。それでも負の感情に支配されるなら、書き出してみましょう。ポイントは「〇〇さんに会うと嫉妬してしまう」と、事実だけを具体的に書くこと。それだけで、心がずいぶん落ち着くはずです。自分を客観視することが、幸せに気づくための秘訣です。

今日あった「いいこと」を3つ書き出す

人間は、「失敗した」「悔しかった」など悪いことをより強く記憶しがち。そんなネガティブな出来事に気持ちが偏ってしま ったら、一日の終わりに、今日あったいいことを3つ書き出すのが有効です。朝気持ちよく目覚めた、ランチがおいしかったなど、小さなことでかまいません。3つ見つけられない日は、ひとつでも2つでも。書き出す習慣ができると、朝から「いいこと」を探すクセがつきます。そしてそれは、幸せ体質に近づいた証拠。

ポジティブな思い込みをする

笑顔をつくると、脳が嬉しい、楽しいと勘違いしますが、思い込みも同じ。「本気で思い込む」ことはあなどれません。脳科学の世界でも、「頭に描いたことは実現しやすい」と実証されています。おすすめなのが、初対面の人に会うとき。誰もが緊張しがちですが、私はいつも「これから会うのは絶対にいい人 」と自分に言い聞かせています。もしかしたら、思い込みは幸せへの近道かもしれません。

思わずほほ笑んでしまうことを思い出す

見上げた空がとてもきれいだった、あるいは、子どもが幼かった頃のかわいらしい姿をふと思い出したーーそんなとき、思わずほほ笑んでしまったことはありませんか? その先にあるのは、ポジティブな幸福感。心がほどけてリラックスしている状態です。こういったエピソードをいくつか自分の引き出しにしまっておくのも、幸せに近づく方法です。悲しいときや、自己嫌悪に陥ったとき、その幸福感が救いとなってくれるはず。

※この記事は「ゆうゆう」2022年11月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

profile
前野マドカ
まえの・まどか●慶應義塾大学大学院SDM研究科附属SDM研究所研究員
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。EVOL代表取締役CEO。国際ポジティブ心理学協会会員。『そのままの私で幸せになれる習慣』『ニコイチ幸福学』など著書多数。

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