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『魔女の宅急便』の著者・角野栄子さんが描く自伝的物語の続編『イコ トラベリング 1948–』著者の分身・イコはどんな青春を送るの?

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ゆうゆう編集部

『魔女の宅急便』の著者・角野栄子さんの自伝的物語。その続編がこのたび完成しました。『イコ トラベリング 1948–』 著者の分身・イコはどんな青春を送るのでしょう。戦争を体験したイコが、どう成長していったのか。冒険大好きなイコの姿は、そのまま角野さんを思わせるようです。

『イコ トラベリング 1948–』
角野栄子著

『トンネルの森 1945(』2015年刊行) に続く著者の自伝的物語。戦争を乗り越えたイコは、戦後の復興の中、青春時代を好奇心旺盛に生きていく。1650円/KADOKAWA

戦後という特殊な時代を生きるイコを描きたかった

半世紀以上にわたり、子どもたちの心をときめかせる物語を次々と世に送り出してきた作家の角野栄子さん。

2015年に、自身の戦争体験をもとにした自伝的物語『トンネルの森 1945』を上梓し、このたび、その続編となる『イコ トラベリング 1948–』が刊行された。舞台は終戦後の1948(昭和)年、イコは13歳となり、その青春物語が始まる。

「戦争を体験している者としてね、やはり戦争のことを書きたいなとずっと思っていたんです。ただ、平和な時代に生きている今の私が書くと、何かを間違えてしまうんじゃないかという思いもあり、ずっと頭を悩ませてきました。

結局、いろいろな説明や後づけの理解などはやめて、私と同じ当時10歳だった女の子が見た戦争を書こうということに落ち着きました。 それが『トンネルの森 1945』でした。

でも、書き終えてしばらくすると、今度は「戦後」というのも、日本にとって特殊な時代だったなと考え始めたわけです。その中で、戦争を体験したイコがどういう生き方をし、どう成長していったのか、続きを書いてみたいと思いました」

まだまだ食糧も物資も乏しく不自由な生活を強いられる中、イコは、持ち前の好奇心と明日への希望を胸に目の前の扉を次々と開いていく。

「イコ=私と考える方が多いかもしれませんが、自伝的要素は5~6割でしょうか。ただ、あの時代のうねりというものに乗って書きました。それは確かに私の時代のうねりだったと思います」

「ずるの方に乗っかって」一緒にうきうきし始める

少女の目を通して活写される日々の暮らしには、歴史の授業などでは決して知ることのできない町の匂いや人々の息遣いが、ありありと感じられる。一夜にして変わった価値観に戸惑いながらも、凄まじい勢いで復興する日本に胸を高鳴らせる人々の様子に、こちらまでワクワクしてしまう。

中学2年生のイコも、先日まで敵国の言葉であった英語の授業で、「知らんぷりして教えようとして」、先生は「ずるい」と感じてしまう。しかし「これからいいことが起きるんだと、どうしてもその方に気持ちが向いて」いき、「八十パーセント方、ずるの方に乗っかって一緒にうきうきし始め」るのだ。

「悪いほうに変わったとは思えないわけですよ。電気はつくし、水道は出る。ないないづくしの大変な食糧難ではあったけれども、ラジオから聞こえてくるのは、音楽や落語であって、大本営発表ではない。戸惑うよりもワクワクするのね。『どうして人間ってこんなに変わっちゃうの?』といういささかの疑問はあったけれども、それまでよりもよくなりそうな気配が少女にとっては魅力でしたね」

迷いながらも成長していくイコだが、印象的なのは、もう二度と大勢に簡単にはくみしないという潔い姿勢だ。それはスポーツであっても、歌声喫茶の合唱であっても同じ。「仲間に入れ」と「脅かされて従うなんて、どんなことでももうまっぴらだ」。

「戦争中の『みんな一緒に』からやっと解放されたのに、またみんな一緒という気配が私はとっても嫌だったの。民主主義も自由主義もいいことよ。でも『主義』ってつくと『みんな一緒』って感じがする。だから私だけの民主主義でいいと思ったし、私だけの自由主義でいいと思った。ただ成長していく中で、一人で生きていくことは孤独だろうということもわかってきた。でも、それを受け入れて初めて自由が自分の中に生まれるんだ、ということも知っていったんですね」

「トラベリング」の題名のとおり、各章はイコにゆかりの、成長に合わせた年齢や場所になっている。「ここではないどこか」に憧れる好奇心旺盛、冒険大好きなイコの姿は、そのまま角野さんを思わせる。現在、来年11月のオープンを目指して、江戸川区角野栄子児童文学館の建設が進行中で、ここにも角野さんのいろいろな夢や思いが詰まっているようだ。

大人になっても、角野さんのようなみずみずしい心をもち続けられたら、人生はなんとワクワクすることだろう。

「あてもない旅とか、あてもない散歩とかを大人になってやってみるのもいいんじゃないかしら。思いもかけない人やものとの出会いがあって、きっとその人の中に思いもかけない発見があると思うの」

著者プロフィール
角野栄子
かどの・えいこ●東京・深川生まれ。24歳からブラジルに2年滞在。1970年作家デビュー『魔女の宅急便』「アッチ・コッチ・ソッチのちいさなおばけ」シリーズなど著書多数 。紫綬褒章、旭日小綬章受章。2018年国際アンデルセン賞作家賞受賞。2023年11月に江戸川区角野栄子児童文学館(仮称)が開館予定。

撮影/馬場わかな


※この記事は「ゆうゆう」2023年1月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

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