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「言葉は、作家として進むために背中を押してくれるもの」直木賞作家 窪美澄さんを変えた3つの言葉とは?

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ゆうゆう編集部

読んだ人の心に残るじわっとしみる言葉を

今57歳。自分の視点が変化していることに気づく。
「私はずっと子ども側の視点で小説を書いてきたんですよね。母との関係がよくなかったので、母から受けた傷のようなものを書くことも多かった。でもこの年齢になって、『私も母を傷つけてきたのだ』と気づけるようになりました。そろそろ親の視点で物語を書きたいと思います」

だからこそいろいろな人に会って話をすることを大切にしている。
「同年代の友人でも、思っていることや考え方が実は全然違う。どんな過程を経てそう思うようになったのか、知りたいですね。いろんな視点から人物を描くためにも」

そして作家としては、「誰かの心に残る言葉を書けるようになりたい」と願っている。
「谷川俊太郎さんや中原中也の詩が好きで、読むたびに尊敬しますし、何でこんな表現が思いつくんだろうと唖然とします」

詩の中に、「これは今の私の心の中を表してくれている」と思う言葉に出合うこともあるという。

「言葉にできなかった感情や、ぼんやりと思っていたことを詩の中の短い言葉で表現されていることがあって、『私の感情を言葉にしてもらったなぁ』と思うんです。私は、谷川さんや中也の足元にも及びませんが、いつか誰かの心の中の『名づけられていない感情』に言葉を与えられる作家になりたいですね」

言葉へのリスペクトがあるからこそ、窪さんの文章は優しく美しい。もうすでに、多くの人の心に残っているに違いない。

「私の青春はもはや堅い血管となり、その中を曼珠沙華(ひがんばな)と夕陽とがゆきすぎる。」

中原中也の詩「盲目の秋」の一節。若さの喪失を「堅い血管」と表現し、そこを流れるものは曼珠沙華と夕陽……言葉選びはまさに大天才! あ、私って、こういう言葉に感化されるんだと納得。

PROFILE
窪 美澄
くぼ・みすみ●小説家
1965年東京都生まれ。女性・育児・医療分野を中心とする編集ライターを経て、2009年「ミクマリ」で女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』は山本周五郎賞を受賞、本屋大賞2位となり、映画化もされた。22年『夜に星を放つ』で第167回直木賞を受賞。

Information
『夏日狂想』
大正から戦後にかけて「書く女」として生きようとする女性の生涯を描いた最新作。主人公・礼子のモデルとなった長谷川泰子は中原中也と小林秀雄に愛された女性。中也がモデルの詩人・水本は、破天荒ながら繊細で魅力的な人物として描かれる。現代の「書く女」である窪さんの、先人たちへの思いに満ちた作品。1980円/新潮社

写真提供/新潮社

※この記事は「ゆうゆう」2023年2月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

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