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最新映画で親子役を演じた、役所広司と菅田将暉が語る撮影秘話。自由奔放な息子・宮沢賢治と、厳格だけど隙だらけの父の物語

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ゆうゆう編集部

日本を代表する映画俳優として第一線で活躍を続ける役所広司さんと若手実力派俳優ナンバーワンの呼び声が高い菅田将暉さん。最新映画で親子役を演じたお二人のスペシャル対談が実現! 互いの印象、作品への想い、撮影秘話など、たっぷりと語っていただきました。

賢治の父・政次郎の面白さが作品の大きな魅力に

5月5日に全国公開となった映画『銀河鉄道の父』。原作は2018年に直木賞を受賞した門井慶喜氏の同名小説。世界中から愛されている詩人で童話作家の宮沢賢治は、実はダメ息子だった──。そんな大胆な視点から、賢治の生涯を見守り続けた父・政次郎と宮沢家の人々を描く。息子への無償の愛を貫く親バカな政次郎役を役所広司さん、父を翻弄しながらわが道を行く青年期の賢治役を菅田将暉さんが演じる。

役所 僕は宮沢賢治さんのことはあまり知らなかったけれど、原作を読んだら物語自体が非常に感動的で、家族の温かさが身にしみて。どうやって賢治の作品が生まれてきたのかという背景がわかりやすいし、新たに賢治の作品を見直すきっかけになるだろうとも思った。
菅田 僕もそんなに詳しいわけではないですけど、賢治を題材にした映画や音楽がたくさんあるじゃないですか。それだけ興味をそそられる人物なのだろうから、賢治を演じられるのが楽しみでしたし、お父さんの面白さにも魅力を感じました。
役所 原作の門井先生がおっしゃっていましたけど、お父さんに関する資料はほとんどないんですって。宮沢賢治の作品と、宮沢家がいかにお金持ちだったかとか、そういうところからひもといて人物像をつくっていかれたんだろうね。
菅田 それがすごいですよね。創作とは思えない物語だと感じました。たとえば、賢治はいつもお父さんに怒られている。そうなると普通は父親のことを避けそうなものなのに、賢治はいろんなことを正直に話し、頭を下げて援助をお願いして……。
役所 賢治はわかっているんだよ、厳格ぶっていても隙だらけの父親の甘さを。そして政次郎も、そんな息子を理解していたんだろうね。
菅田 お父さんって無条件に怖いし、かなわない。負けてないつもりでも、対峙すると圧で面食らう。そういう感じがずっとあったけれど、最後に二人で喋るシーンのときに、やっと初めて普通の会話ができましたよね。そのとき「やっぱり親子なんだな」って感じがしました。
役所 最後の最後になってしか息子をほめてあげられなかった。それまで援助はしても、昔の人だから励まし方がわからなかったんだろうね。賢治は人間として美しい人。政次郎からすると眩しいくらいの存在だったんじゃないかな。だから自由奔放な息子をずっと見守って、最後までそばにいて。お父さんや家族の愛があってこそ、賢治の作品が生まれてきたんだろうなと思います。

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Profile
役所広司 ■ 俳優
やくしょ・こうじ●1956年、長崎県生まれ。83年、NHK大河ドラマ「徳川家康」で織田信長役を好演し、脚光を浴びる。95年、映画『KAMIKAZE TAXI』で毎日映画コンクール主演男優賞を受賞。96年には『Shallwe ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で国内の映画賞で主演男優賞を独占。2021年公開の『すばらしき世界』では、シカゴ国際映画祭において最優秀演技賞を受賞。日本を代表する映画俳優として活躍中。

菅田将暉は宮沢賢治を演じるために生まれてきた!?

Profile
菅田将暉 ■ 俳優・歌手
すだ・まさき●1993年、大阪府生まれ。2009年、ドラマ「仮面ライダーW」でデビュー。13年、主演映画『共喰い』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。17年、『あゝ、荒野』で同賞最優秀主演男優賞を受賞した。近作に映画『花束みたいな恋をした『キネマの神様』『百花』、ドラマ「コントが始まる」「ミステリと言う勿れ」など。

意外にも、お二人は本作が初共演。「政次郎は役所さん、賢治は菅田さん、どうしてもこの二人でやりたい」という成島出監督からの熱烈オファーにより実現した。

役所 菅田くんが賢治をやるということがとても興味深かった。だって菅田くん、天才的な俳優ですから。
菅田 誰が言うてんすか(笑)。
役所 菅田くんが主演した映画『共喰い』を観て、すごい俳優さんだなと思いましたよ。俳優やってなきゃ何をやってるんだろうってくらいの人だと、ずっと思ってた。だから今回の現場で、空き時間に台本を読んでいるのを見て驚いたね(笑)。
菅田 そりゃ読みますよ。
役所 そんなもの見ずにやっているのかと思ったら、意外と台本を読み返したりしている。やっぱり努力しているんだなと思ったよ。
菅田 それは僕も同じです。役所さんが現場でセリフをブツブツ言ったり、練習したりする様子を見せてくれたことには驚きました。そういう姿を見られて嬉しかったです。
役所 でも、岩手の方言には苦労したね。アドリブが効かないから。
菅田 効かないっすよね。
役所 あらかじめテープを聞いておいて、現場でそのつど、方言指導の方に教えてもらって。菅田くんはチェロも大変だったんじゃない?
菅田 そうだった! 監督からの要望のハードルがどんどん上がっていったんですよ。最初は弾くだけだったのに、「弾きながら歌える?」って(笑)。初心者なんて音が鳴るだけでほめられるような楽器だから、弾き語りはめっちゃ難しかったけど、気持ちいい楽器で楽しかったです。ただ何が大変だったかって、家で練習できないこと。うるさすぎて。
役所 ああ、そうか……。
菅田 全力で弾くと近所迷惑になるから、カラオケや事務所で。3週間くらい、ひたすら練習しました。
役所 賢治自身、小説も詩も書くし、音楽もやるし、農業もやるし。いろんなことに興味をもって、実践した人。菅田くんも音楽をやっているし、洋裁もできるんだよね?
菅田 縫い物、好きですね。
役所 そういうことを考えると、賢治は菅田くんみたいな人だったんじゃないかなと思うし、菅田くんは賢治をやるために生まれてきた人なんじゃないかと思うんだよね。とにかく楽しかったですよ、菅田将暉の芝居を間近で見られて。
菅田 いや、逆です。僕のほうがむちゃくちゃ楽しかったですから。

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