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【虎に翼】寅子、再生!翼は失われてはいなかった。そしてまた、法の世界で幸せを勝ち取りにいく

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田幸和歌子

【虎に翼】寅子、再生!翼は失われてはいなかった。そしてまた、法の世界で幸せを勝ち取りにいく

「虎に翼」第45回より(C)NHK

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1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

★前回はこちら★
【虎に翼】張り詰めた戦いの連続だった本作で、出征前の優三(仲野太賀)と過ごした時間は、初めて見るキラキラした幸せな時間のように描かれた

伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第8週「男は度胸、女は愛嬌?」が放送された。

この週で描かれたは、「寅子の再生」が描かれていく。

優三(仲野太賀)と結婚し娘にも恵まれたものの、それでも寅子の「地獄」は続く。戦禍が続くなか、優三は出兵、寅子は弁護士としての道を自らの手で閉ざす。翼はどんどんもぎとられていき、あれだけ豊かだった寅子の感情も目の光も、どんどん失われていくようである。

そこにあるのは、ごく当たり前な運命として受け入れる「あきらめ」。このドラマで印象的なのは、戦争に対する向き合い方だ。「戦争なんて愚かな行為」という戦後視点もふまえた描写はこれまで多くの朝ドラで描かれてきたし(近所の鼻息荒い「国防婦人会」の面々との小競り合いなどもよく見る印象だ)、もちろん国の進む道に乗っていくわけでもない。善悪というものではなく、ただそこにあるもの、ある意味気象の変化か何かのように、状況を当たり前に受け入れて日々を過ごしている。

我々戦後生まれの世代には知ることはできないが、もしかしたらそういう向き合い方が当時は自然だったのかもしれない。帝大を目指していた優秀な弟・直明(三山凌輝)も、戦争による「あきらめ」が描かれた。直明も時々寂しそうにするが、それもまた、そこにきたものを受け入れているからこそのあきらめ。この空虚感に、リアリティを感じる。

兄・直道(上川周作)の戦死の報に、花江(森田望智)が号泣するなど、戦争の理不尽さを感じさせてくれる場面ももちろん描かれている。そして、寅子にとっての大きな翼、優三も戦地で病死していた。その報せは、調子を崩しどんどん衰弱していった父・直言(岡部たかし)が半年も隠し持っていた。直言が倒れたときにそれが発覚し、寅子は大きなショックを受ける。

しかし、その悲しみを打ち消すように語られた「理由」は、ショックで寅子が倒れたら猪爪家が傾くだの、本当は、結婚相手は花岡(岩田剛典)がよかっただの、隠れて寿司を食べたり酒を飲んでいたりしていただの……自分が死ぬことで懺悔・暴露大会が「まだ続く?」と突っ込まれるほど繰り広げられ、その流れと混乱の中にかき消されてしまったかのようだった。そして懺悔の数日後、直言はこの世を去っていく。

直言、直道、優三……これまでそれぞれの明るさを届けてきてくれた猪爪家・佐田家の男性はみんないなくなった。

絶望を通り越して訪れた寅子の喪失と空虚は、続く。

第1話の冒頭、ナレーションの尾野真知子の声で読み上げられる日本国憲法13条・14条。このシーンは、法曹界で女性弁護士として寅子が活躍を続け、ついに辿り着き公布された希望に満ちたものだとばかり思っていた。しかしそれは全く違うものだった。

悲しみを癒すために、自分のためだけに使いなさいと持たされたお金で買った焼き鳥が包まれた新聞紙、そこに書かれたものだったのである。つまり、寅子が何もできなかった時期に日本国憲法は公布されていたのである。法の世界は、今の寅子とは全く関係ない世界の話になっていたのだ。その現実を知ることで、なお胸がいたむ。

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