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【らんまん】どこまでも地べたを行く美しさ。万太郎ははたしてオワコンなのか

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田幸和歌子

一方、波多野(前原滉)と野宮(亀田佳明)は、ついにイチョウの精虫(運動する精子)を発見。万太郎は二人の快挙を喜び、徳永はこれで世界の頂点に立てると咽び泣く。これは、植物学の歴史が浅く、標本数では到底勝てない日本なりの戦い方によって得た勝利だ。おそらく「勝ち負け」で論じるなら、波多野と野宮の成し遂げた功績が植物学における勝利で、なおかつ「正解」で、万太郎はそうした土俵から降りた敗者でオワコンかもしれない。

しかし、『らんまん』の美しさは、万太郎が幼少期から語ってきた「雑草という植物はなく、1つ1つに名前があり、それぞれに役割がある」という平等な精神だ。

万太郎はまだ発表されていないオーギョーチの植物に台湾での呼び名を加えて発表する。細田(渋谷謙人)はこれに大反対するが、万太郎は台湾で生々しい戦争の傷跡を見てきたと振り返り、強い口調で宣言するのだ。

「人間の欲望が大きうなりすぎて、ささいなもんらは踏みにじられていく。じゃけ、わしは守りたい、植物学者として」「わしはどこまでも地べたを行きますき。人間の欲望に踏みにじられる前に、全ての植物を明らかにして、そして永久に図鑑に名前を刻む」

植物学を研究の最前線や栄枯盛衰で語るなら、万太郎はすでに衰退期にあるかもしれない。しかし、植物にも人間にも優劣をつけず、それぞれの個性を平等に愛する万太郎にとって、自身が背負う役割はまだまだ志半ばだ。

今週はそんな植物学の変化・時代の流れの一方で、随所に戦争の色が見えた。

みえの料亭「巳佐登」は岩崎弥之助(皆川猿時)ら得意客で賑わい、戦争の特需で紡績工場が好調な中、仲居たちの懐も客からの心付けで賑わう。また、岩崎も恩田も日本が世界に並び、追い抜く日を信じ、浮かれている。そんな中、寿恵子は商才を認められ、みえに商売をしないかと持ち掛けられ……。

「勝機」や「好景気」に活気づく人々を描きつつ、その一方で踏みにじられるモノの存在を思い出させ、警鐘を鳴らす、実に深みのある週だった。

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