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【らんまん】最終回。遠い未来の人々のために、わずかでも自分が何を残せるか。そんな問いを突き付けられる作品だった

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田幸和歌子

そして、図鑑の最後のページには万太郎が見つけた新種、ササ・スエコアナ(スエコザサ)が。2人は3206種の植物が載った図鑑を「らんまんですね」「らんまんじゃ」と喜び合い、寿恵子は万太郎に言う。

「また草花に会いに行ってくださいね。そこに私はいますから。草花と一緒に、私もそこで待ってますから」

そして、ラストシーンでは採集に出た万太郎が、草花と共にある寿恵子に出会うのだ。

「雑草という草花はない。一つ一つに名前があり、役割がある」ということを終始ブレずに伝え続けてきた『らんまん』。それは、私たち自身の中にある人やモノに対する差別や侮蔑、憎悪、敵意などの意識もあぶり出す作品だった。

田邊に大学への出禁を命じられたとき、田邊を「悪役」として憎んだ視聴者も多かったろう。しかし、万太郎は打ちひしがれそうになっても、敵意を向けるのではなく、自身に道を拓いてくれた田邊に感謝し続けた。

植物が競争の材料にされ、人間の欲望に利用されようとしても、それを憎むのではなく、自分のできること、なすべきことを追求した。それはひたすら植物を純粋に愛するためであり、後の世につないでいくため。理学博士になったのも、大学や大学院を出ずとも実績や学識のある者が正しく評価されるという、後の者たちへの道を拓く行為だったろう。

翻って、私達はどうか。森の木々が伐採され、国立博物館がクラウドファンディングをせざるを得ないほど、東京藝大ではピアノを売却しなければならないほど予算不足に困窮し、働き方を狭める税制が導入され、自然も学問も文化も危機的状況に瀕している。

人間の欲望は尽きない。そんな中で、今の若い人たちのために、さらに遠い未来の人々のために、わずかでも自分が何を残せるか、守れるか。そんなことを考えさせられる優しく温かくも、重要な問いを突き付けられる気がした作品だった。

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