私らしく生きる 50代からのマチュア世代に

人気記事ランキング 連載・特集

中森明菜さんデビュー3年目。「十戒」でツッパリを極める。「こういう曲は私にしか歌えない」

公開日

更新日

濱口英樹

「飾りじゃないのよ涙は」誕生秘話

「十戒」でツッパリを極めた明菜さんですが、快進撃はさらに続きます。次のシングル「飾りじゃないのよ涙は」(1984年11月)は虚無的とも言える孤独を描いた詞を軽快なシャッフルビートに乗せたナンバーで、またしても新境地を開拓。作詞・作曲は当時、第2次ブームが到来していた井上陽水さんで、島田氏は「夢の中へ」のようなテンポ感のある楽曲を、と依頼したそうです。

近年は宮本浩次さんなど、多くのアーティストにカバーされてスタンダードソングとなっている同作ですが、当初はアルバムに収録される予定でした。それだけ当時の明菜プロジェクトが充実していたということでしょう。しかし、その状況はレコーディングスタジオに井上さんが登場したことで一変します。ご本人の要望を受けて仮歌を歌ってもらったところ、素晴らしい歌声にスタジオミュージシャンのテンションが上がり、見事な演奏を引き出したからです。

「これはシングルでいくしかない」。考えを改めた島田氏は10作目のシングルA面に「飾りじゃないのよ涙は」を採用。内省的な詞を情感たっぷりに歌う明菜さんはアイドルの枠を超えたアーティストとして飛躍します。

ここまでシングル10作の制作エピソードをお話ししてきましたが、『オマージュ〈賛歌〉to 中森明菜』には、島田氏が最後に関わった「ミ・アモーレ〔Meu amor é・・・〕」(1985年3月)の誕生秘話も掲載されています。「世界に羽ばたく明菜」の集大成に位置付けられた同作は日本レコード大賞を受賞しました。

20歳で歌謡界の頂点に立った明菜さんはその後も一作ごとに作家や曲想の異なる作品をリリース。いずれも自分の歌として昇華したばかりでなく、衣装や髪型、メイクなど、ビジュアル面も含めたセルフプロデュース力を発揮しトップスターの座を確立します。その才能はこれまでご紹介した初期3年間(1982~1984年)の楽曲や作家との出会いによって磨かれたと言っていいでしょう。

中森明菜の世界観に浸りたい人に!

中森明菜 配信アーティストページ
中森明菜特設サイト

【中森明菜「全アルバム復刻シリーズ」発売中です】

★初代ディレクターの島田雄三氏が手がけたシングルA面11曲と、初期6作のアルバムから島田氏が1曲ずつセレクトした全17曲を収録。2022年12月に発売された最新のベストアルバム。『Singles〜1981−85 中森明菜 11 Great Hit Singles+6 by Yuzo Shimada』

★2023年5月に復刻されたベストアルバム。「スローモーション」から「SOLITUDE」まで初期のシングルA面13曲を網羅した1986年盤に、アルバム未収録のシングルB面2曲をボーナストラックとして収録。『BEST (+2)【オリジナル・カラオケ付】<2023ラッカーマスターサウンド>【2CD】』

★1984年5月に発売された5作目のオリジナルアルバム。バハマの首都・ナッソーでボーカル録りが行われた。ヒットシングル「北ウイング」、本人が初めて作詞を手がけた「夢を見させて・・・」など全10曲に加え、復刻盤には「北ウイング」カップリング曲の「涙の形のイヤリング」をボーナストラックとして収録。
『ANNIVERSARY FROM NEW YORK AND NASSAU AKINA NAKAMORI 6TH ALBUM (+1)【オリジナル・カラオケ付】<2022ラッカーマスターサウンド>【2CD】』

★1984年10月に発売された6作目のオリジナルアルバム。ヒット曲「サザン・ウインド」「十戒(1984)」のほか、「北ウイング」の続編として制作された「ドラマティック・エアポート-北ウイングPartⅡ-」など全10曲を収録。復刻盤にはシングルのカップリング曲2曲が追加収録されている。
『POSSIBILITY AKINA NAKAMORI 7TH ALBUM(+2)【オリジナル・カラオケ付】<2022ラッカーマスターサウンド>【2CD】』

★1985年4月に発売された7作目のオリジナルアルバム。本作よりディレクターが代わり、フュージョン色の濃い、洋楽的なサウンドに進化。EPO、角松敏生、飛鳥涼、松岡直也、吉田美奈子ら豪華作家陣の参加が話題を呼んだ。「飾りじゃないのよ涙は」の別バージョンを収録。
『BITTER AND SWEET AKINA NAKAMORI 8TH ALBUM(+2)【オリジナル・カラオケ付】<2023ラッカーマスターサウンド>【2CD】』

★1985年8月発売の8thアルバム。大貫妙子、タケカワユキヒデ、NOBODY、忌野清志郎、井上鑑など、ロック/シティポップ系のミュージシャンが多数参加した意欲作。ヒットシングル「ミ・アモーレ」の別バージョン収録。復刻盤には「赤い鳥逃げた」など、4曲がボーナストラックとして収められている。
『D404ME(+4)【オリジナル・カラオケ付】<2023ラッカーマスターサウンド>【2CD】』

★あわせて読みたい★

中森明菜さんデビュー2年目のストーリー。「不良1/2」だったタイトルは「1/2の神話」に変更された 中森明菜さんの「少女A」歌唱ストーリー。涙を流した猛反発から堂々と歌い切るまでの軌跡

オマージュ〈賛歌〉 to 中森明菜

島田雄三著
濱口英樹著
シンコーミュージック・エンタテイメント刊

本書は、1981年にオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ系)で彼女をスカウトし、ディレクター/プロデューサーとして足掛け5年(81~85年)彼女を担当した島田雄三(元ワーナーミュージック・ジャパン)の証言*を中心に、制作に関わった作家やスタッフにも取材し構成した「初期・中森明菜」の制作記録である。ひとりの歌好きな少女が時代を象徴するスターへと駆け上がっていく過程を、音楽的なこととその関連事項に絞ってドキュメンタリー的に描いている。
*CD[ワーナーイヤーズ・全アルバム復刻シリーズ」(ワーナーミュージック)の解説を再構成し、加筆したもの。

詳細はこちら

PICK UP 編集部ピックアップ