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【らんまん】そこにはもう田邊の姿はない、はたして本当に事故だったのか……そんな疑問も残る中、再び植物学教室へ

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田幸和歌子

ノジギクが1等に選ばれることはなかったが、故郷・土佐と懐かしき夢を思い出したと言う岩崎は、300円で買い取るとみえに伝える。 

今週特に印象的だったのは、田邊の死のような大きな出来事を直接的に描かない一方、随所に見られた繊細な描写、美しい映像だ。

万太郎夫婦を訪ねて来た聡子の奥に広がる長屋の開けっぴろげな人々のやりとりは、聡子の緊張感を解すような温かさに満ちている。

子どもたちの姿も実に伸び伸びしていて、資料の山の傍らで、火をおこすそばで「ここで遊ばない!」と子どもたちを叱りつける寿恵子の声が響く様は、小さな子どもがいる日常を実に自然に映し出している。

また、背景に映り込む料亭周りや室内に設られた木々や生花は、よく手入れされていて、みえや従業員たちの丁寧な仕事ぶりが見えるようだ。

そして、金策のために叔母のもとを訪ねた寿恵子が、仲居として働き、深夜に帰宅したときの万太郎の迎え方——寿恵子の帯を緩めてあげ、お茶を出し、肩を揉む、あまりに自然な流れには、槙野夫婦の日常が見える。  

さらに、政財界の重鎮らを相手に仲居をする寿恵子が攫われないかと心配する万太郎と、「仕返し」として植物採集のときにどこに泊まっているのかと問う寿恵子のヤキモチの応酬、お互いの愛情確認が描かれた後に、灯を消す万太郎の様子が。夫婦のいつまでもラブラブな様子が、この灯を消す1シーンにさりげなく見える。

ちなみに、今週の演出は、津田温子氏。女性ならではの夫婦・家族の描き方や、奥行きを生かした画作りの繊細さが見える気がした。

そして、万太郎は教授となった徳永に呼び戻され、植物学教室に正式に「助手」として迎えられることになる。久しぶりに訪れた植物学教室に変わらず差し込むやわらかな陽の光。しかし、そこにはもう田邊の姿はない、どこかぽっかり穴の空いたような寂しさ。

映像美が言葉以上に雄弁にたくさんのことを伝えている気がする21週だった。

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