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近藤サトさんが選ぶ珠玉のフレーズ「育て磨いた芸こそが『枯れない花』となる。 恩師の言葉を胸に研鑽を積んでいきたい」

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ゆうゆう編集部

花のイメージの幅広さを教えてくれた都々逸

それまであまり意識してこなかった「花」というワードが、近藤さんの中でひときわ大きな意味を帯びるようになった。そして数年前に出合ったのが、明治期の遊女たちにうたわれた「花になりたや 高嶺の花に とるに取られぬ 夢の花」だ。

「花という言葉からは、美しさや若さ、派手できらびやかな様子が思い浮かぶもの。でも、この都々逸でうたわれている『花』には、文字どおり華やかな遊廓のイメージとは裏腹に、自由に憧れる遊女のはかなく切ない思いも込められていて。彼女たちの置かれた境遇や、つらさ、悲しさまでもが『花』という言葉から伝わってくるんです。花という日本語のもつイメージの広さ、深さにハッとさせられました」

この言葉に惹かれた近藤さんは、ナレーターの名刺ともいえる「ボイスサンプル」に収録した。都々逸という限られたセンテンスの中で、そこに込められた女性たちの思いまで声で表現する。その技術がどれほど高度なものか、私たちには想像に余りある。

「花になりたや 高嶺の花にとるに取られぬ 夢の花」

明治時代の遊女の間ではやった都々逸の一節。ここでの「花」は悲しくはかない存在として描かれている。一見すると華やかに見える遊廓の世界で、自由を求めながらも叶わない遊女たちの声が聞こえてくるようだ。

「花」に込められた意味を追い求めて

「音声表現って本当に奥が深くて、今の自分には全然満足していないんです。二人の先輩方からいただいた『花』は、研鑽して究めていく芸の到達点。手塩にかけて育み、年月が経っても枯れない存在ですよね。果たして私自身がそこを目指せているのか。そう考えると、言葉を贈られた若い頃よりも、年齢や経験を重ねてからのほうが意味の重みが増してきて、今ちょうど学び直しを考えているところなんです」

実はグレイヘアを選んだ理由も、これらの言葉に通じるものがあるのだとか。見た目の若さはあくまで「時分の花」。それにしがみつくことなく、「真の花」「心の花」を追究したい──そう考えるうちに自然と浮かんだ選択肢だったという。

「これから私に『花』を究められるときが来るのかはわかりません。もしかしたら『花』は追い続けるものなのかもしれない。だって『私はすべての芸を究めて頂点に立ちました!』という人の言葉って、きっと心に響かないでしょう?(笑)いつまでも追い求め、研鑽を重ね続けることが、私にとっての『花』なのかもしれません」

PROFILE
近藤サト

こんどう・さと●1968年岐阜県生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒業。
91年フジテレビに入社し、報道番組や情報番組などのナレーションを担当。98年フジテレビ退社。フリーランスに転身した後は、落ち着いた声質を生かして日本テレビ系列「真相報道 バンキシャ!」などのナレーションを中心に活躍。
また母校である日本大学芸術学部の特任教授も務める。

近藤サトの着物バラエティ「サト読ム。」

アナウンサー、ナレーターとして活動する近藤サトさんが、趣味の「着物」の魅力を発信するYouTubeチャンネル。初心者も気軽にチャレンジできる着付けのハウツーから、最新の和装小物、着物にまつわる雑学、着物の産地探訪、和装のヘアメイクのコツなどまでをわかりやすく紹介している。
https://www.youtube.com/@satoyom

※この記事は「ゆうゆう」2024年2月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。


取材・文/後藤由里子

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