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直木賞受賞作、河﨑秋子さんの『ともぐい』。「新たなる熊文学」と話題になったその内容とは?

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ゆうゆう編集部

熊と人間の物語の中で人間の本質を深掘りしたい

熊爪は野生動物を狩り、肉にしてふもとの町で売る。得たお金で米と銃弾を買い、再び山に戻る。ともに暮らすのは犬1匹。かわいがるでもなく、心許すでもない。しかし、犬と歩く山の情景は常に美しい。春の芽吹き、夏の草木の生命力、秋の恵み、雪の白と空の青。その色が、香りが、空気が、音が、河㟢さんの筆致から鮮やかに浮かび上がる。

一方で、登場する人間たちはどこか怪しげな空気をまとう。熊爪を支える良輔は、ただの善人には見えない。謎めいた盲目の少女・陽子はとらえどころがない。熊爪に命を救われた太一は自己中心的。そして熊爪は、そのすべてがどうでもいい。しかし物語の中盤、熊との闘いで怪我を負った熊爪は、人のぬくもりを求め始める。

「単純に、熊爪が熊と闘って死ぬまでの物語として成立させることはできたと思うし、それはそれで深みのある物語になったと思います。でも私はだいぶひねくれているので、さらに深く『人間』を掘り下げた物語を構築したいと考えました」

物語の後半、山のボスである熊「赤毛」との激しい死闘、そしてもう一つの「闘い」が読み手の心を震わせる。これはもしかして恋愛小説?

「そう受け取っていただいてもかまいません。いろんな意味で『ともぐい』の物語なんです」

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