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【中野翠のCINEMAコラム】さすがの美貌も衰え始めたエリザベートに突き抜けたおかしみがにじむ『エリザベート 1878』

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中野翠

ユニークな視点と粋な文章でまとめる名コラムニスト・中野翠さんが、おすすめ映画について語ります。この映画の主人公は、19世紀末、ヨーロッパの宮廷で一番の美貌と言われたオーストリアの皇妃・エリザベート。彼女が40歳を迎えた1年間に光を当て、その素顔を浮き彫りにしています。

19世紀末、ヨーロッパの宮廷で一番の美貌と言われたオーストリアの皇妃・エリザベートの話だけれど、甘ったるくロマンティックな話ではない。辛辣で喜劇味もある、リアルな話になっている。もちろん、衣裳や調度も見もの。

時代背景は1877年から78年(日本で言えば明治10年。森鷗外や夏目漱石の少年時代)。エリザベートは40代に突入。さすがに老いを感じるようになる。美貌を誇っていただけに、ショックも大きい。「私は美人」というアイデンティティが揺るがされてしまって、まんまと不眠症に……。

さらに最愛の馬が射殺されたり、夫(皇帝)と若い女の仲を邪推したり、実の娘からよそよそしくされたり……。

というわけで、医者から「無害だから」と言われてヘロインを呑むことに――。あげくの果て、気力も体力もなくなってゆく。そして……という話。

めちゃくちゃ情けない話なのだけれど、どこか、突き抜けたおかしみもあり。悲劇のプリンセスというよりも、「このお姫様、ロックしてるーっ、ザッと150年ほど昔の話なのに!」と思ってしまうところもあり(51歳の頃、旅先で肩の一方に錨のタトゥーを彫り込んでいたという)。

こんな複雑人格の女を演じたのは、演技には定評のあるヴィッキー・クリープス(1983年生まれ)。脚本・監督はマリー・クロイツァーという女の人(1977年、オーストリア生まれ)。

話が後になってしまったけれど、実は、エリザベートが主役の映画は、これが初めてではない。1955年、『プリンセス・シシー』というタイトルで映画化されていた。ドイツ人のロミー・シュナイダー主演で。こちらは言うまでもなく、出会いから結婚までのスイートな話――。

『エリザベート 1878』

監督・脚本/マリー・クロイツァー
出演/ヴィッキー・クリープス、フロリアン・タイヒトマイスター、カタリーナ・ローレンツ 他

8月25日よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下 他 全国順次公開(オーストリア、ルクセンブルク、ドイツ、フランス 配給/トランスフォーマー、ミモザフィルムズ)

© 2022 FILM AG - SAMSA FILM - KOMPLIZEN FILM - KAZAK PRODUCTIONS - ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN - ZDF/ARTE - ARTE FRANCE CINEMA

そうそう……7月28日から懐かしのイタリア映画『ひまわり』が(一部の映画館限定だけれど)リバイバル上映されます。懐かしの立派な映画。あの、印象的なひまわり畑はウクライナで撮られたのだった……。

※この記事は「ゆうゆう」2023年9月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

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