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「離婚は幸せになるための選択。おめでとうと祝福されていい」直木賞作家・千早茜さんの実体験が色濃く反映された長編小説

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ゆうゆう編集部

作中の魅力的な料理は「食べ物メモ」からセレクト

そんなまりえに、新しい恋が訪れる。年下の「由井くん」との微妙な距離感に、胸がきゅんとしない女性はいない(はず)。由井くんが、まりえに習って小麦粉を練る姿はやけにセクシーだし、出来上がった葱花餅(ツオンホアピン)や鍋貼(ゴーティエ)はあまりにおいしそうで、エロティックでさえある。

「そうですか? 私は食べることが大好きですけど、そんな目で食べ物を見たことはありませんよ(笑)」

自他ともに認める食いしん坊。本書のみならず、千早さんの小説やエッセイに登場する料理はどれも魅力的だ。最近食べたおいしいものは?と聞くと、「氷室豚という熟成豚肉です」と即答する。

「私は豚の脂身が得意ではないのですが、この豚は脂身が最高なんです。熱したフライパンに脂身部分を押しつけると、ジュワーッと脂が染み出しますよね。それで身を焼くんです。己の脂でこんがり焼かれた肉のおいしさといったら!」

話を聞くだけで、食べてもいない豚肉のうまみが口の中に広がってしまう。物語の中に出てくる食べ物は、さらに食欲をそそる。それらの料理の多くは、日々、千早さんがつけている「食べ物メモ」から引っ張り出されるそうだ。季節はもちろん、主人公の趣味や収入などに応じてメモから選んでいく。それが登場人物の軸になり、存在感と魅力を与えてくれるのだ。だからだろう。本作では脇役たちも印象的だ。アイドルオタクの観月台先輩、会話が成立しないお見合い相手の本田さん、シビアな結婚観をもつ婚活仲間の香織さん。彼らの過去や未来も知りたくなるが、登場シーンは多くない。

「いろんな人を章ごとに出していきたかったので、深追いはしませんでした」。ちなみに、千早さんのお気に入りは?

「由井くんですね。真面目に食べる人が好きです。でも意外に人気がなくて……おかしいなぁ(笑)」

『マリエ』を読み終えると、そんなふうに誰かと語り合いたくなってしまう。どの登場人物が好き? まりえの生き方、どう思う? 結婚って何だろう?

そして思う。人生って案外いいものだな、と。

PROFILE
千早 茜

ちはや・あかね●1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。
2008年『魚神』で小説すばる新人賞、09年同作で泉鏡花文学賞を受賞するなど注目を集め、22年『しろがねの葉』で第168回直木賞受賞。新井見枝香さんとの共著エッセイ『胃が合うふたり』も話題に。

※この記事は「ゆうゆう」2024年1月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。


取材・文/神 素子 

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