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宇佐美まことさんの最新推理小説『誰かがジョーカーをひく』。二転三転するスピーディーな展開に、読み始めたら目が離せない!

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ゆうゆう編集部

物語に厚みをもたせるのはクセの強い脇役たち

物語は、40代半ばの主婦・沙代子が、夫の暴言に耐え切れず、衝動的に家を出たところから始まる。あてもなく車を走らせていると、目の前に飛び出してきたキャバクラ嬢・紫苑をはねてしまう。痛い痛いとうそぶき、脅し文句を吐きながら車に乗り込んできた紫苑は、とある頼みを沙代子にもちかける。

紫苑の命令で、訳もわからず回収したバッグには、なんと3000万円の大金が。紫苑は沙代子に横取りと山分けを提案する。もともとの主体性のなさに実家の事情も重なって、きっぱりと拒否できない沙代子。行きがかり上、バディとなったふたりに、紫苑が入れあげる気弱なホスト・峻、その峻をめぐって紫苑とライバル関係にある女子高生・陽向も絡んでくる。誰が味方で誰が敵かーーそして見え隠れする謎の犯罪集団の影。

二転三転するスピーディな展開に、読み始めたらもう、目が離せない。また知らず知らずのうちに、沙代子の身を案じてしまうことが、読み手のハラハラ感に拍車をかける。

「沙代子は内向きで臆病で、自分に自信がもてない女性。家庭にも居場所がないので、皆さんが心配してくださるのかもしれないですね。逆に、他の登場人物は、みんな傍若無人で個性的すぎて(笑)、最初はちょっと手こずりました」

クセの強い脇役たちが生き生き躍動するのも、人間を描くことをむねとした宇佐美作品の真骨頂だ。

「書いていると、そのうちひとりひとりが勝手に動くようになるので、これがなかなか面白くて。紫苑と陽向が言い争うシーンもそう。緊迫した状況なのに、ちょっとコミカルになるんです。そんなところも楽しんでもらえると嬉しいですね」

沙代子たち4人の関係は、奇妙な共同生活を通じて、物語の終盤まで続いていく。それぞれに思惑があって、反発し合ったり腹の探り合いをしたり。着地点がまったく見えないうえに、聞こえてくるのはよくない情報ばかり。

「窮地に立たされて、沙代子はようやく覚醒します。自分にもできることがあるんじゃないかと気づくんですね。このあたりからの彼女を、ぜひ応援してやってほしいです」

その先は、作品全体のテーマである「食」が際立ってくる。主婦として、毎日きちんと料理を作り、食べることと丁寧に向き合ってきた沙代子。

そして、伏線としてたびたび語られてきた、沙代子の子ども時代のエピソードもカギとなる。人里離れた山で暮らす親子から沙代子が授かった、生きる知恵とはーー。

沙代子自身、取るに足らないと思っていた経験と知識がどんな力を発揮するのか。結果、この物語はどう収束するのか……圧巻の結末を見届けるまでは眠れない。

50歳で作家デビュー。今も変わらず主婦です

文学賞の受賞をきっかけに作家デビューしたのは、50歳のとき。子育てが一段落したタイミングだった。

「40代までは、ごく普通の主婦でした。そのせいもあって、沙代子の人物像はイメージしやすかったのかもしれません」

現在は、作家活動に専念しているのかと思いきやーー。

「いえいえ、今も夫の会社で働いていて、家事もやります。それが気分転換にもなっているんです。ものを書いていると、どうしても煮詰まってしまうので。でも夫とふたり暮らしなので、食事は手抜きになりがち。沙代子さんに叱られそう(笑)」

PROFILE
宇佐美まこと

うさみ・まこと●1957年、愛媛県生まれ。
2007年、『るんびにの子供』でデビュー。17年、『愚者の毒』で第70回日本推理作家協会賞〈長編及び連作短編集部門〉を受賞。
『骨を弔う』『子供は怖い夢を見る』など著書多数。
現在も愛媛県松山市在住。

※この記事は「ゆうゆう」2024年3月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。


取材・文/猪股史子(FT企画)

ゆうゆう2024年3月号

特集「心躍る!若返りの旅」では、旅の達人・友近さんと山脇りこさんのインタビューに続き、編集部から「早春の花を愛でる旅」「新緑の京都への旅」「春の島旅」「絶景露天風呂の旅」を提案。「料理好き、暮らし好き、器好きのおいしいキッチン」では、海辺の街に暮らす料理家・飛田和緒さんの、光がたっぷり入る明るいキッチンの他、建築デザイナー・井手しのぶさん、料理家・五味幹子さんのキッチンを取材しました。わが家のキッチンをリフレッシュする参考にもなりそうです。

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