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萩尾望都の漫画『トーマの心臓』を久しぶりに一気読みしたら。「今読み返してもクラクラとときめくのだ」

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Anmitu

友達と回し読みをした思い出の漫画は、どんな作品でしょう。時を経て今、久しぶりにその漫画を一気読みしたら、どんな感想をもつのでしょう。1974年から『週刊少女コミック』(小学館)にて連載が開始された、萩尾望都さんの『トーマの心臓』を、久しぶりに一気読みしたマチュア世代ライターのレポをお届けします。
※ネタバレにご注意ください。

「答えは1つだけではない」 ことを教えてくれた物語

教えてくれた……と書いてはみたが、正しくは「感じた」「気がする」、今もってそのていどの理解しかない。ましてや、当時14歳だった私はまっさらな少女。けれど『トーマの心臓』の連載1回目を読んで、ただならぬ衝撃を受けたことを生々しい感覚で思い出すことができる。

<プロローグ>
絵/ひとりの少年が雪の中を歩いて行く。すれ違った子犬と目があい、振り返る。
ト書き風セリフ/
――ぼくは、ほぼ半年のあいだずっと考え続けていた
ぼくの生と死と、それからひとりの友人について――

その朝
トーマ・ヴェルナーは
郵便局で一通の
手紙を出した

まぢかに春

雪は水音をたてて
くつの下でとけた

▶(ページをめくると見開きで)
絵/少年が陸橋から飛び降りる
セリフ/ユーリ……ユリスモール!

▶(ページをめくると見開きで)
絵/少年と少年の父と思しき人物が、草原に立ち並び、父の持つステッキが地平線の彼方を指し示す。
(のちに、このとき交わされた会話が明かされるが、まさに本作品のテーマの一つであることがわかる重要な伏線になっている)
ト書き風セリフ/
ぼくは、ほぼ半年のあいだずっと考え続けていた
ぼくの生と死と、それからひとりの友人について
……(中略)

人は二度死ぬという まず自己の死 そしてのち 友人に忘れ去られることの死
    
それなら永遠に
ぼくには二度目の死はないのだ(彼は死んでもぼくを忘れまい)
そして
ぼくはずっと生きている
彼の目の上に

モノローグともとれる独白から物語は始まる。まるで映画を見ているように音が聞こえ、画面が動き出す。早く続きが読みたい!

連載は『週刊少女コミック』でスタートした。でも、毎週コンスタントに購入するにはおこづかいが足りない。そこで同級生のKと交替で買って回し読む約束をする。そしてこの回し読み作戦によって、私たちはむしろどっぷりとハマっていくことになる。

購入担当者が当然先に読むため、手渡しする際に今週の『トーマの心臓』のダイジェストを説明しつつ、ちょっとした感想を伝える必要が生じたわけだ。よって、1コマ1コマのタッチ、人物の表情をガン見して、自分なりにセリフを読み砕く。登場人物たちの心模様やドキドキする自分の心の高鳴りは何なのか、わからないながらも一所懸命に行間にある言葉にならない思いを言葉化することによって、妙な自覚が生まれ、すっかりしっかり『トーマの心臓』の虜になってしまったのだ。

何しろ、セリフが重くて深い……ということは、わかる。けれど、その理由がわからない、上手く説明できない。でも、凄く大切なことがセリフの一言、少年たちの表情に隠れている。友人のKも同じ思いで、2人はどんどんと深淵で壮大な、これまでに読んだことのない世界へ引き込まれていった。

主な登場人物は4人プラス1。

作品タイトルにある、トーマ。13歳。少女のようなルックスで愛らしく、「すなおでいいこ」。学園(シュロッターペッツ)では「フロイライン(かわいい子)」的存在で知られていた。足を滑らせて陸橋から転落した事故として周知されているが、ユーリに遺書を残し自死。事実を知るのは、ユーリ、オスカー、エーリックの3名。何故トーマは死んだのか、物語の軸となる人物。

トーマに酷似のエーリック。14歳。トーマが亡くなった数日後、学園に転校して来る。裕福な母子家庭で、何不自由なく母の愛を一心に受け育つ。これまでは家庭教師によって学んでいたため、自由奔放な振る舞いで何かと騒動を起こすものの穢れのない無垢な愛されキャラで「ル・ベベ(赤ちゃん)」と呼ばれ、しだいにクラスにもなじんでいく。また何かと、自分と重ねられるトーマに興味を抱き、彼を知ろうとするアクションによって物語は進行していく。

ユーリことユリスモール。14歳。クラス委員、図書委員で成績はトップ。加えて品行方正、マイナス点なしの少年。父は、ギリシア系の血を引く「きっすいのドイツ人」ではない実業家で、事業に失敗して負債を遺し他界。そんな父親ゆずりの漆黒の髪と瞳を持つ端正な顔立ちのユーリを祖母は疎ましく思っている。ならば、「かならず成功して」自分への偏見を覆したいと、常にトップを走り続けていた。

ところがそんなユーリには、誰にも明かせない過ちを犯した秘密があった。危険な相手と知りながら、上級生サイフリートの誘いにのり、忌まわしい暴行、リンチをうけたのだ。みずから神を裏切り、悪魔に身を捧げ堕した自分を許せず、また誰からも赦されることのない罪びとと蔑み、卑しめ「愛すること 愛されること 信じること 信じられること」は自分には赦されない、「資格がない」と思っている。

オスカー。15歳。一見不良だが、冷静に物事を見ながら判断できる少年。ユーリと同室となったことで、彼がうけた心身の傷を何となく察し、セーフティーネットのように見守っている。1歳年上であるのは、カメラマンである父と放浪する旅を1年経験していたからだ。母は旅に出る半年前に拳銃の暴発事故によって亡くなっていた。父親は学生時代の友人である学園の校長に、この子をしばらく預かってほしいと託し去って行く。しかしオスカーは見抜いていた。母は暴発事故ではなく、父に打たれて死んだことを。そしてその原因は、カメラマンの父は実は本当の父ではなく、校長である彼こそが本当の父であったためであることを。「おとなっぽい目をして おとなっぽい口をきいて 金髪をかきあげていた彼」もまた、苦悩を抱えていたのだ。

プラス1。サイフリート。17歳。ルネッサンスの中心思想、人文主義を原点に中世キリスト教の禁欲的な考え方ではなく、ふしだらなもの、悪魔的とされた欲望にも人間的な美しさがある。彼独自のルネッサンス極論的解釈から「宗教のいうもろもろの悪はむしろ善である。とまどわず行動せよ……!」「すべて人間は堕天使 信仰など事態が急変すればくだけ消える!ご都合主義で安易なもの!」の持論を「実証」すべく、ユーリを夜会に誘い出し、リンチを加え、暴行し思想信条の転向を強いる。

筆者の私物。『トーマの心臓』は1974年19号から52号に渡って『週刊少女コミック』(小学館)で連載。1975年1月、4月、6月に『フラワーコミックス』(小学館)から3冊に分冊され単行本化、刊行する。

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