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池松壮亮さんの魅力的な素顔。「俳優として最も大事なことは人間力だと思います」

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ゆうゆう編集部

存在感のある役者として今やひっぱりだこの池松壮亮さん。ときおり屈託のない笑顔を見せながら、新作映画から映画にかける思いまで、慎重に言葉を選び話してくれました。俳優という枠におさまりきらない素顔もとても魅力的です。

空の下に人がいると感じさせてくれる映画です

新しい時代劇映画が誕生した。

100年後の未来の子孫に映画を楽しむ「良い日」が訪れることを願い、エンターテインメントの力でアクションを起こすことを目的に立ち上げられた「YOIHI PROJECT」。その第1弾が阪本順治監督の新作映画『せかいのおきく』である。

「脚本としても素晴らしかったし、この国でモノクロ映画の企画は通らないという常識も覆している。他にも製作委員会方式ではない映画づくりなど、新しい試みがいくつもあり、非常に魅力的なプロジェクトだと思いました」

江戸の市井で生きる若者の姿をモノクロで描いた本作で、池松壮亮さんは物語をまわす役目も担う矢亮(やすけ)をみずみずしく演じた。

「江戸時代は衣食住のすべてでリサイクル・リユースが行われる、ほぼ完全な循環型社会だったそうです。この役を演じ、そのことから学びを得ました」

資源の少ない日本。衣食住、すべてが貴重な資源だった。鍋や釜の底に穴が開けば鋳掛屋(いかけや)が修理し、割れた陶磁器も焼き接ぎでくっつけて使う。紙屑買いが集めた反古紙(ほごがみ)は漉(す)き直され、再生紙として何度も生まれ変わった。

町人は古着を着回し、日本橋富沢町、大伝馬町、小伝馬町の古着商はいつも買い物客で賑わっていたという。すり切れた着物は子ども服、寝間着、おむつ、雑巾と次々に形を変え、果ては焚きつけとなり、その灰さえも、肥料や上薬の原料として売り買いされた。

極めつきが肥汲(こえく)みの汚穢屋(おわいや)だ。糞尿は江戸市中から近在の農家に運ばれ、畑の肥料となった。

「矢亮は汚穢屋です。現代の感覚からすると鼻や目を塞ぎたくなるような汚れ仕事ですが、コップ一杯の矜恃をもって明日の飯代を稼ぎ、生きている。低い身分で社会に虐げられながらも、夢を語り、空を見上げ、豊かさを忘れていません」

糞尿をすくう、混ぜる、運ぶ……社会の最底辺の仕事ゆえに、汚穢屋とさげすまれもする。だが一方、心を通わせ合う仲間とのささやかな喜びもあり、ふとした瞬間の命の輝きはまぶしいほどだ。長屋には粗末な棺桶である早桶(はやおけ)を作る老職人がいて、人もまた生きて死に、いずれは土に戻る存在であることが暗示されてもいる。

「空の下に人がいて、世界が回っていると感じさせてくれる味わい深い映画です。観てほしいとしか言いようがないんです」

「人に求めんな」 その言葉が響きました

「俳優に必要なのは演技力といわれるけれど、最も大事なものは人間力だと思います。心が反射するんですよ。美意識や倫理観、どういうことを感じて生きているのかが反射するんです」

10歳のときに劇団四季のミュージカル『ライオンキング』の子役オーディションでヤングシンバ役に選ばれデビューした。
12歳のときには、ハリウッド映画『ラスト サムライ』に出演。トム・クルーズ演じる主人公と心を通わす少年、飛源を演じている。続く『鉄人28号』では、1万人の中から主役に選ばれた。才能あふれる名子役として華々しいキャリアを重ねたが、以降何度も立ち止まった。これでいいのか、と。

言われたとおりやるだけでは納得できない。笑っていればいいというのもいやだ。自信をもって観てくださいと言えるものはどういうものなのか。考え、自分の言葉で自問する。
 
1年に1本だけ仕事をする時期もあった。20代になっても俳優を続けるべきなのか、たびたび悩む瞬間があった。「そんなときに原田満生さんと飲む機会があって、言われたんですよ。『いい作品とかいい人とか、待ってるんじゃないよ、おまえがいいものにすりゃいいだろう。人に求めんな』って」

原田満生さんは、映画美術監督だ。そうそうたる監督を支えてきた大家、日本映画の宝といっていい。
「響きました。わかっちゃいたけど、原田さんに真っ正面から言われて。その辺からだいぶ意識が変わったと思います。誰かが何とかしてくれるという他力本願では駄目だ。作品をいいものにするために、自分が力を注がなければならない。そこに、自分の活動としての価値をおくようになったんです。望まなければ敗北もないけれど、僕には『いいものにしたい』という執着を捨てることはできないから」

その原田さんこそ、「YOIHIPROJECT」のプロデューサーだ。
「人のまねをしていても駄目だし、自分のことは自分で答えを出すしかないと思っているので、仕事のことに限らず自分のことで誰かに相談をすることはほとんどありません。原田さんはちょっと特別ですね。原田さんのプロジェクトの門出として、少しでも助けになればと参加しましたが、僕にとってもかけがえのない経験になりました」

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