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樫山文枝さんに聞く、伴侶を失ってからの生き方「ひとりでいる夜の時間、テレビを見ながらつい、話しかけてしまいます」

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ゆうゆう編集部

長年連れ添った伴侶に先立たれたとき、その現実と向き合い、乗り越えるのは容易なことではありません。それでも生きていくためには、どうすればいい? 伴侶を失って、それでも自分の人生を歩んでいくために——。2020年12月に別れを経験した樫山文枝さんに、お話を伺いました。

舞台に立っているときは孤独から解放されます

樫山文枝さんの夫、個性派俳優として活躍した綿引勝彦さんの訃報が届いたのは、2020年12月のこと。18年にがんと診断された後も、「皆に気を使わせたくない」と、病を隠して5本の映画に出演し、75年の人生を閉じた。

「彼は何でも自分でやってしまうし、とても我慢強い人。痛いとか苦しいとか、一切弱音を吐きませんでした。だから、どうやって支えればいいのか戸惑うことも多くて。今にして思えば、もっと何かしてあげられることがあったのではないかという、後悔は残っています。ただ、一昨年から去年……と、少しずつ気持ちの整理はつきつつあるかな。でもね、今年に入ってから、ときどきすごく寂しくなるんです」
と、複雑な胸中を明かしてくれた樫山さん。

亡くなって間もない頃は、遺品の整理や煩雑な事務手続きに追われ、泣く暇もないくらいに慌ただしく毎日が過ぎていったという。

それから間もなく、樫山さんは舞台への復帰を果たす。

「何度も再演された大切な作品の、最終公演に臨みました。彼は私の役どころを気に入っていて『そうそう、この役がいいんだよ』って、いつも言っていたんです。だからきっと喜んでくれるはずだと思いました」

舞台に立っているときは、孤独や喪失感から解放される——そうも実感したという。
「舞台こそが、私の居場所であり聖地。演じることで、救われた思いがしました」

思い出の山荘に行けば、そこに彼がいるようで

亡くなる少し前まで、軽井沢の山荘を訪れていた綿引さん。「土いじりが好きで、しかも手際もよくて本格的。意外な一面でした」

さらに昨年は、新作の舞台に挑むことを決めた。膨大なセリフを集中して覚えるため、樫山さんはひとり軽井沢へ。

「草花や木を育てたり、鳥の巣箱を作ったり……。自然と触れ合うことを何よりの楽しみにしていた彼の大好きだった古い山荘があるんです。あそこなら、のびのびと稽古できると思い立ちました」

亡き夫との思い出の場所を訪れるのは、辛くなかっただろうか。

「山荘に一歩入ったとたん、彼の『気』や思いがふわっと伝わってくるようで、むしろ嬉しかったですね。彼が愛でたシンボルツリーや草花もちゃんと育っている。そんな環境に身を置けるのは、とても幸せだし、ありがたいと思いました」

今年も5月になれば、山荘の庭は新緑で彩られ、一斉に花が咲く。
「花たちに会いに行きたくなります。彼がそこにいるような気がして」

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