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夏川草介さんの最新小説。現役医師の著者が今、改めて考える人の命のあり方、人の幸せとは?

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ゆうゆう編集部

「どうしたら患者さんが笑顔で過ごせるのか。自分が目指したい世界を描いていきたい」と話すのは、作家であり現役医師でもある夏川草介さん。地域医療に携わる夏川さんが、20年間の医療生活から今、改めて考える人の命のあり方、人の幸せとは? 最新小説『スピノザの診察室』についてお話を伺いました。

『スピノザの診察室』
夏川草介著

雄町哲郎は京都の地域病院で働く内科医。妹の遺児と暮らすため大学病院の職を辞し現職に就いた。ある日、大学病院から若い女性医師が派遣されてくる。
水鈴社 1870円
https://www.suirinsha.co.jp/books/detail11.html

切羽詰まったときにときどき答えをくれるのが哲学

現役医師として地域医療に携わりながら、医療をテーマにした作品を書き続ける夏川草介さん。

本書は、命と向き合い続けてきた夏川さんが「治らない病気の人や余命が限られている人が幸せに過ごすことはできるのか」と問いかける。

「医師をやっていると、最初の5~6年は患者さんの治療に夢中になるんです。治すことに必死になる。ところがそうするうちに、治らない病気にどうつき合っていくか、という問題が出てくるんです。

『この患者さんには治療ではなく看取りを行う』という判断に基準はありません。余命6カ月でも頑張って治療に臨みたいと思う人もいれば、がんと診断された瞬間から旅立ちの準備を始める人もいる。

医者が看取りの線を引くこと自体に、可能性を切り捨てる危険性がある。そう考えたときに、どうしたら患者さんが笑顔で過ごせるのかというところを、もっと広い視点で捉えていきたいと思ったんです。その幸福というものに気づき始めている医師や、結果として生まれる、ある幸福な世界を描きたかったんです」

主人公は京都の町中の地域病院、原田病院に勤務する消化器内科医の雄町哲郎、39歳。通称「マチ先生」。かつて大学病院で将来を嘱望された医師であったが、数年前、最愛の妹が病気で他界。一人残された甥の龍之介と暮らすために大学病院を辞し、今の職に就いた。

勤務する病院は、認知症や進行したがんなどを抱える年配者が主な患者で、「治る人」はほぼいない。大学病院の先輩、花垣は哲郎の才能を惜しむが、その生き方を理解してもいる。

そんな哲郎の拠りどころがスピノザの哲学だ。「こんな希望のない宿命論みたいなものを提示しながら、スピノザの面白いところは、人間の努力というものを肯定した点にある……」。これには夏川さんの経験が反映される。

「医療現場では、答えの出ない問題が山のように出てくるんです。うつ病の患者さんにがんの告知をしてよいかどうか。肝硬変の患者さんがいて、その人が80歳だったらお酒を飲んだらダメなのか、もう80歳だから飲んでもよしとするのか……。

それなりに切羽詰まっていて、でも結論を出さなきゃいけない問題があるとき、哲学ってときどき答えをくれることがあるなと感じていました。学生時代は励ましてくれるニーチェが好きだったのですが、医師になり弱ってきている人間には刺激が強すぎて。そんなときスピノザを読んだら、自分のもっている価値観と似ていると思え、その世界観をわかりやすい言葉と自然な空気で表現したいと思いました」

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